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年末商戦を目前に、各社の薄型テレビ新製品が出揃った。本格的な普及期を向かえ、2011年の地上アナログ停波というイベントに向けた市場の拡大が期待される一方、景気の先行き不安による売れ行き減の懸念、収益の悪化によるメーカーの減少など、右肩上がりの成長が期待された例年とは、やや趣が変わりつつある商戦ともいえる。 とはいえ、各社が新しい利用提案、技術進歩を進めており、年末商戦に向けて各社がそれぞれの特色をもったラインナップをそろえてきた。画質や機能にこだわったフラッグシップモデルの技術動向を中心に、2008年の冬商戦モデルの特徴や傾向をまとめた。 □関連記事 ■ LEDバックライト+部分駆動 液晶テレビの次のトレンド、として期待されるのが「LEDバックライト」と、「部分駆動」だ。ソニーの「BRAVIA XR1シリーズ」、シャープの「AQUOS XS1シリーズ」で両技術を導入している。
液晶テレビの光源にLED(Light Emitting Diode)を採用した製品は、2004年のソニー「QUALIA 005」など、すでに発売されていた。しかし、消費電力の大きさやそれに伴う冷却機構の問題、LEDの寿命などの多くの障害があり、なかなか大規模な量産モデルとしては展開されてこなかった。それが今シーズンは、2社から登場。また、CEATECやFPD Internationalといった展示会では、次世代の技術トレンドとして、多くのパネル/製品メーカーが技術デモを行なっている。 LEDバックライトでは、白色タイプと、レッド/グリーン/ブルーの3色LEDを利用するRGBタイプがある。一般的に、RGBのほうが色再現性に優れるとされているが、LED寿命の均一性や、コストなどから白色LEDを支持する向きもあり、Dolbyが展開するHDR技術も白色LEDを利用としている。ソニーのBRAVIA XR1とシャープAQUOS XS1はともにRGBのLEDバックライトを採用している。 LEDバックライトの採用で両社がアピールしている点は、色再現範囲の拡大などの画質の向上。より忠実な色再現が可能ということで、多くの注目が集まっている。さらに、両社とも映像にあわせて部分的にバックライトをコントロールする部分駆動技術を導入。同一のコマ内でも、映像の明部ではバックライトを明るく点灯、暗部では完全に消灯できるため、コントラスト感を大幅に改善。両社ともダイナミックコントラスト比は100万:1以上をアピールしている。 なお、両社とも搭載しているLEDの数や、部分駆動の制御エリアの分け方については公表していない。
また、両製品ではコントラストや色再現以外にも、LEDの採用により多くの機能向上を図っている。ソニーは1フレームをさらに細かく分割してバックライトのON/OFF制御を行なう「バックライトブリンキング技術」を組み合わせることで、残像感の低減を目指すなど、画質に特化した利用。一方、シャープのAQUOS XSでは、LED配列を工夫することでディスプイ部を薄型化。さらにチューナユニットも外付けとし、製品コンセプトとして“薄さ”を訴求している。これらもLEDの搭載による、差別化の方向といて期待される部分といえるだろう。
現時点では、このLEDバックライト+部分駆動は、BRAVIA XR1、AQUOS XS1ともに、シリーズのフラッグシップモデルの付加価値技術として導入されているに過ぎない。だが、画質面だけでなく、薄型化や低消費電力化などのLEDの導入による技術革新も期待されている。例えば、ソニーのBRAVIA ZX1は、四方のベゼル部に白色LEDを内蔵したエッジライト方式により、最薄部9.9mmという薄型化を実現している。こうした点においても、今後のLED技術の動向が注目される。 □関連記事 ■ 超解像
東芝のREGZA ZH7000/Z7000/FH7000シリーズで導入され、注目を集めているのが 「超解像」技術だ。製品化しているのは東芝だけだが、NECエレクトロニクスが専用LSIを開発したり、日立が技術発表を行なったりとにわかにトレンドになりそうな気配だ。 超解像の技術的な詳細については、「大画面☆マニア」で特集しているので、そちらを参照してほしいが、簡単に紹介すれば、通常の拡大処理ではなく、表示映像の情報量を入力映像原信号から増加させながら解像度変換を行なうというもの。言葉で説明しても難しいが、要するに単純なスケーリング処理よりも、高品位な画質を生成することが期待できる技術。その目的は単純で、高解像度なパネルに、SDなどの映像ソースを入力した際にも綺麗に表示するためだ。 最近発売される30型超の薄型テレビは、その多くがフルHD/1,920×1,080ドットの解像度を持つパネルを採用している。しかし、SD解像度のDVDビデオなどを再生する際には引き伸ばして表示するため、その品質に不満を感じることも多い。また、地上デジタル放送も1,440×1,080ドットで、フルHDに満たない。こうしたパネル解像度の向上に対して、それに映像信号の情報量が足りないというミスマッチが生じた。その結果、「新しいデジタルテレビなのに画質がいまひとつ良くない」と思われてしまうことは避けたい。これを比較的美しく、違和感無く表示するプロセスが求められており、そのための技術として超解像が注目されているわけだ。
ある意味、テレビのサイズと解像度が上がったことによる“弊害”と、その解消が超解像技術に求められているといえる。 東芝のREGZA ZH/Z/FH7000シリーズでは、入力画像に対し1,920×1,080ドットの高解像度処理を加えたのち、独自の関数によりダウンコンバートして元映像と同じ低解像度画像を作り出す。画像を入力画像と比較して、その差分を検出。ダウンコンバート前の画像に対し、その差分成分を補正することで、出力画像の鮮鋭感を大幅に向上する。 非常に複雑な処理ではあるが、実際に確かな効果が確認できる。ディティール表現の向上は顕著で、地上デジタル放送やDVDなどの視聴には大いに活躍する。ただし、万能ではないという点には注意が必要だ。REGZAにおいては、フルHD/1,920×1,080ドットの映像に対しては、超解像処理は行なわれない。つまり、元が高品位なものをさらに良くする、という技術ではない。例えば、DVDプレーヤーからHDMIで1080pにアップコンバートしてREGZAに入力した場合でも、超解像は適用されないのだ。 とはいえ、今後一部業務用機器では、フルHDだけでなく、4K(4,096×2,160ドット)などさらなる高精細化の機運もある。こうしたより高画質へのスムーズな移行を促す意味でも、重要な技術といえる。東芝のほかにも、NECエレクトロニクスも専用のLSIを開発して、2009年にテレビ向けの展開を予定している。今後の発展が期待される技術といえるだろう。 □関連記事 ■ HDD録画対応機が増加。BDレコーダ内蔵も登場 テレビへのHDDレコーダ機能搭載も一部のメーカーを中心に進んでいる。特に力を入れているのが東芝と日立だ。
東芝は、冬商戦向けREGZA全20モデルのうち15モデルで録画対応。ZH7000、FH7000、H7000といった機種でHDDレコーダを内蔵。USBやeSATAなどで接続した外付けのHDDへの録画にも対応するほか、ZシリーズではLAN HDDへのネットワーク録画も可能となっている。 さらに、「レグザリンク・ダビング」にも新たに対応。従来は録画した番組をREGZAの内蔵HDDやUSB HDD間でのみダビング可能となっていたが、DTCP-IPを新たにサポート。 ネットワーク経由で専用のネットワークHDDレコーダやVARDIAにREGZAの録画番組をダビング可能とした。レグザリンク・ダビングの対応機器はまだ少ないが、今後の拡大を期待したい機能だ。 日立の「Wooo」ではすべてのモデルでHDD録画に対応。HDDを内蔵していない場合でも、追加のiVDRカートリッジを利用することで録画機能を追加できる。また、上位シリーズでは、ViXS製のトランスコードLSI「XCodeHD」を搭載し、HD解像度のままデジタル放送番組の記録容量を約半分程度まで圧縮。長時間録画が行なえる。今シーズンからHDD録画対応モデルを投入したのはパナソニック。プラズマテレビの最上位シリーズ「VIERA PZR900」で1TBのHDDを内蔵した。また、i.LINKも備えており、i.LINK対応のDIGAへのダビングも可能としている。
しかし、今シーズンのテレビの録画機能で最大のトピックといえば、シャープ「AQUOS DX」だろう。HDDではなく、Blu-ray Discレコーダを内蔵した世界初のテレビとなる。 録画機能も本格的で、ストリーム録画だけでなく、2/3/5倍の長時間録画にも対応する。ただし、BDの記録容量は25/50GBで、数100GB~1TBのHDDに比べると少ない。シャープでは、「アナログビデオデッキに近い使い勝手を実現し、ビデオデッキからの買い替えを狙う」としている。録画時にディスクを入れて、残量を確認しながら録画予約を設定。残量や録りたい番組、ユーザーにあわせてディスクを変えていくという、ビデオデッキ的な活用に市場のニーズがあると判断。シンプルな録画とディスクを積極的に活用を提案していく方針だ。 当然、記録したBD-R/REディスクを、ほかのBDプレーヤーで再生することも可能。BD/DVDプレーヤー一体型テレビとして、BDの普及促進役としての期待もかけられており、吉永小百合と香取信吾を起用したプロモーションも積極展開。テレビ+ブルーレイの魅力を訴求している。こうしたシャープの戦略がどこまで浸透するのか、「AQUOSと言えばBD付」が当たり前になるのか、今シーズンの大きな注目点といえるだろう。
□関連記事 ■ 薄型化とともに、無線で設置の自由度向上 ディスプレイ部の厚みが35mmという日立Wooo UTシリーズの登場以来、広がりを見せているのが、液晶テレビの薄型化だ。春夏シーズンもシャープのAQUOS XJやソニーのBRAVIA Fなど、各社が薄さを生かしたテレビを発表していた。これらの多くの薄型テレビでは、従来から利用されているバックライト用のCCFL(冷陰極管)や拡散板など部材の改善や、実装方法の工夫により、薄型化を実現しているのだが、今シーズンの薄型化で新しいアプローチといえるのが、LEDの採用だ。 前述のLED+部分駆動では、主に「高画質化」としてLEDの活用事例を紹介したが、LEDは薄型化にも活かされている。例えば、シャープの「AQUOS XS」は、LED配列を工夫することで薄型化を図っている。
さらに“薄さ”にフォーカスして、LED光源を使ったのがソニーの「BRAVIA ZX1」だ。40型/1,920×1,080ドットのフルHD液晶テレビながら、ディスプレイ最薄部で世界最薄の9.9mm、最厚部で28mmを実現しているのが最大の特徴だ。 薄型化の実現のため、チューナを内蔵したメディアレシーバは外付けとして、ワイヤレスでディスプレイに映像や音声を伝送する。超薄型化を実現した要因は、パネルセット一体型の薄型設計と、バックライトを白色LEDのエッジライト方式としたこと。光源となるLEDを液晶背面ではなく、四方のベゼル部に内蔵。独自の偏光板により40型のパネル全体を均一に照らしている。こうしたLEDの応用も今後のトレンドになるかもしれない。 さらに、ZX1では、5GHz帯の無線伝送方式を利用し、チューナユニットからの映像伝送を実現。最高20mの伝送が可能。映像圧縮方式は独自形式(1080i)で伝送される。メディアレシーバを分離し、ディスプレイを薄型化したことで、自由な設置を実現している。
薄型と設置の自由度の両立。これはZX1だけでなく、薄型テレビのひとつのトレンドといえる。薄さを生かすためにチューナ外付けモデルが増加傾向にあるのも、そうした流れの一環といえるだろう。 例えば三菱電機のREAL「LCD-46LF2000」でも、薄型パネルの採用とともにチューナユニットを分離。5GHz帯のワイヤレス映像伝送により、設置の自由度を向上。さらに、スクエアなチューナユニットにあわせたデザインのBDレコーダ「DVR-BF2000」もラインナップし、インテリア性の高さを訴求するなど、薄型+無線による新しい提案が行なわれている。 同様にWooo UTやAQUOS XS1でも別売ながら無線伝送ユニットを用意。薄さを生かす提案として、今後の広い展開が予想される。無線伝送については、各社が独自の技術を利用しているが、業界標準技術と期待されるWireless HDも今後の登場が予定されている。 □関連記事 ■ パナソニックがプラズマを主導へ プラズマテレビにおいても、2008年には大きな変化が起きた。3月にパイオニアがプラズマパネルの自社製造から撤退する方針を発表。10月に同社パネルとしては最終世代となる50/60型プラズマテレビ「KURO KRP-500A/600A」を発売した。来年の製品からは、同社の技術を取り入れたパナソニック製のパネルを採用する計画だ。 さらに、日立もプラズマパネルの基本となるガラスパネル部材をパナソニックから調達する方針を決定、実質的に国内プラズマパネル生産メーカーはパナソニック一社に集約されつつある。 パナソニックは、引き続き積極的にプラズマを展開。自発光の強みを生かした画質面での魅力をアピールしているほか、VIERA PZR900シリーズのように1TB HDDレコーダの内蔵やYouTube対応などの高付加価値化をすすめている。特に50型以上の大型サイズでは価格面でのアドバンテージもあり、4シリーズで42~103型までの豊富なラインナップをそろえている。
□関連記事 ■ エコやネットワークなどの提案も そのほかもテレビ関連では多くのトピックがある。
ネットワーク系のサービスの拡充も続いている。まだテレビでの対応機種は無いものの、デジタルテレビ用ポータルを手がける「アクトビラ」のビデオ配信サービス「アクトビラ ビデオ」がダウンロードに対応した。 さらに、シャープの「Yahoo! JAPAN for AQUOS」のように、デジタルテレビでの操作に最適化したポータルサービスも増えている。同サービスでは、この春の機能拡充により、Yahoo! JAPAN IDを使ったログイン機能を実装し、フォトアルバムサービスをAQUOSから利用可能とした。さらに、天気情報やニュースの取得なども容易にし、使い勝手を向上している。 日立も「Wooonet」などのネットワークサービスを実施。ソニーもデジタルテレビ用ウィジェットの「アプリキャスト」の開発ツールを公開し、ユーザー制作のアプリキャストを利用可能とするなど、各社各様の取り組みが続いている。 また、パソコン用ディスプレイという選択肢も登場してきている。21.5型のフルHD液晶ディスプレイにデジタルチューナを内蔵した製品が登場しており、三菱電機の「MDT221WTF(BK)」、アイ・オー・データ機器の「LCD-DTV222XBR」などが発売。 実売価格は6~8万円と、20型台の地デジテレビと競合する価格ながら、解像度が高く、機能としても「テレビ」と遜色無い。MDT221WTF(BK)ではチューナも地上/BS/110度CSデジタルの3波共用となっている。なお、大型テレビではIPSやVAといった液晶パネルを採用しているが、PCディスプレイ向けの多くはTN方式。従来、TN方式は視野角や色再現などが劣るといわれていたが、さまざまな工夫により改善を図っている。パソコンが中心で時折テレビを見る、という人にとっては、こうした選択肢がなじむ場合もあるかもしれない。
高画質や高機能といった側面だけでなく、ソニーのBRAVIA「KDL-32JE1」のように「省エネ性能」を謳った製品も増えている。
□関連記事 ■ 選択肢が広がるテレビ選び 大画面化は一段落し、ボリュームゾーンは30~40型前半となっている。一方で、価格下落は進んでおり、この9、10月におけるBCNの調査では、金額ベースで50型以上が前年比でマイナスになっている。メーカーにとってはこうした価格下落は厳しいはずだが、これから購入する人にとっては歓迎すべき状況といえる。37~40型台のフルHDモデルも10万円代から購入できるようになっており、昨年の実売価格を考えても、手ごろな値段になりつつある。 設置環境や家族構成、使い方によって、テレビ選びの最適解は変わってくる。無線化や薄型化などの傾向もこうした多様なライフスタイルへの対応といえ、今後さらなる発展も見込めそうだ。例年、価格下落や機能強化が続く中、「買い時」を見極めるのは難しいが、しっかり利用イメージを固めながら、購入を検討したいところだ。 □関連記事 ( 2008年11月19日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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